いけれど、和服で日焼けなさると、お困りになるでしょう……」といった。
新子は、笑いながら、大きなハンカチーフを拡げて、頭から天蓋《てんがい》のようにしながら、
「安心しましたわ。貴君《あなた》には、やっぱり愛人《アミイ》がおありになるんだわ。」と、初めて、本当の親しみを見せて、スパリとした口のきき方をした。
「なぜです。」青年は、驚いたように訊き返した。
「だって、レディにご親切だから……」
「じゃ、今までは僕に愛人なんかいないだろうと、心配していて下さったんですか。」
「だって、あまりお閑《ひま》のように、お見受けしましたの、ほほほほ。」
いたずらいたずらした新子の眸《ひとみ》が、相手の言葉を誘い出すように輝いた。
四
試合《トーナメント》が了《おわ》ると、小太郎がアイスクリームを食べたいというので、三人はブレッツに寄った。そこで、新子はクリームを買った。
卓子《テーブル》に、子爵は新子とさし向いに坐ると、キャメルに火をつけながら、
「貴女がさっき愛人《アミイ》とおっしゃったのは、愛人か許婚《いいなずけ》かのつもりで、おっしゃったのですか……そんな深い意味
前へ
次へ
全429ページ中113ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング