口を出して、
「野球なんかより簡単だよ。すぐ分るよ。カウントの取り方、僕教えるよ。」と、ませた口のきき方をした。
「でも、小太郎さんは、また何かを何かと間違えるんじゃなくって! おほほほほほ。」とからかうと、
「やい! 南條先生の意地わる!」と、いって笑いながら、武者振りついて来た。
三
新子も、祥子《さちこ》が病気になって以来、一度行ったことのあるテニス・コートの前のブレッツで、クリームを買いたいと思いながら、そのままになっているので、同行することにした。
三人は、森を抜けて、陽のよく当る白い径を、旧道の方へ歩いた。
彼女の愛人の美沢は、早く父を亡くして母親育ちであるだけに、お洒落《しゃれ》な細かい動作が、身体にしみついていて、いかにも美青年らしく見えたが、この青年はいかにも健康な、スポーツででも鍛えたらしい若人という感じがした。
話しぶりも、明るくて、気が置けなかった。
新子も、本来の明るいのびのびした気持に還っていた。
旧道に出て、洋服屋や、野菜店《ヴェジタブルショップ》や、家具店などの小さな街を歩きながら子爵は、
「南條さんは、僕の名前ご存じない
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