を、その内から出してくれながら、
「ほんとうに、あの子は金喰い虫だね。でも、来年学校を出たら、働いてくれるだろうね。」と、いった。
「どうですか。女子大なんか出たって、今年なんか十人に一人くらいしか、就職出来ないそうですよ。それに、お姉さまのような人働けるかしら。」
「だって、そのために学問をしているのじゃないのかい。」
「そうは行かないのよ。お母さん、この頃は男の大学を出たって十人に二、三人しか口がないんですもの。お姉さんなんか、芝居なんかを熱心に研究したって、どうにもなるもんですか。」
「じゃ、お前だんだんお金が減るばかりだし、先々どうなるのだろうね。私は、圭子が学校を出るまで、どうにかして喰べつなげばいいと思っていたんだが……」
「妾《わたし》が、働くつもりよ。」
新子は非生活的な一家の代りに、自分が働くよりしようがないと、つとに決心していた。
六
母と卓子《ちゃぶだい》をはさんで新子は、しみじみと云い出した。
「お母様。私、すぐ働くようになるかもしれないのよ。お母さまも知っているでしょう。前川さんて、私のお友達があるでしょう。この間、他所《よそ》でお会い
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