まででしたら、私きっと後を何とか致しますわ。」と、圭子はまた引き受けてしまった。
長女としてあまやかされ、わがままに育ったから、肉親に対しては、いつも無口で不機嫌で、殊にガッチリした新子に対してなぞ、始終いらいらしがちで、お互に語り合うようなことがなかった。だが、一旦「外面《そとづら》」となると、快活で愛想がよく、不景気のフの字も見せず、万事いやな顔などせずきれい[#「きれい」に傍点]ごとで行こうという、お嬢さまの圭子だった。
その夜帰りのタクシの中で思うよう(お母さまに、もう一度おねだりして、ダメだったら……)。
圭子は、今朝判箱を取るために、用箪笥を開けたとき、甲斐絹《かいき》のごく古風な信玄袋がはいっているのを、チラリと見た。あの中には、貯金の通帳がはいっているはず――あれをそっと持ち出して……。
(だって、「落伍者の群」の「彼女」は、貞操まで、お金に換えてしまうんだもの。このくらいなことしたって……)
その夜は、少し睡眠剤を飲んでから、床に就いたのであったけれど、頭は大事決行の思考で、血が立ち騒いで、なかなかに寝つかれなかった。
だが、そのうちに圭子は、気がついた。銀
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