から一際鋭角を作って、大坂城の中へ楔《くさび》のごとく食い入って行くのを見ると、他愛もない児童のように鞍壺《くらつぼ》に躍り上って欣《よろこ》んだ。
先手の者が馳せ帰って、
「青木新兵衛大坂城の一番乗り仕って候」と注進に及ぶと、忠直卿は相好を崩されながら、
「新兵衛の武功第一じゃ――五千石の加増じゃと早々伝えよ」と、勇み立とうとする乗馬を、乗り静めながら狂気のごとくに叫んだ。
武将として何という光栄であろう。寄手をあれほどに駆け悩ました左衛門尉の首を挙ぐるさえあるに、諸家の軍勢に先だって一番乗りの大功をわが軍中に収むるとは、何という光栄であろうと、忠直卿は思った。
忠直卿は家臣らの奇跡のような働きを思うと、それがすべて自分の力、自分の意志の反映であるように思われた。昨日祖父の家康によって彼の自尊心に蒙らされた傷が、拭い去られたごとく消失したばかりでなく、忠直卿の自尊心は前よりも、数倍の強さと激しさを加えた。
大坂城の寄手に加わっている百に近い大名のうち、功名自分に及ぶ者は一人もないと思うと、忠直卿は自分の身体が輝くかと思うばかりに、豊満な心持になっていた。が、それも決して無理で
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