3水準1−15−25]という称呼さえ、なんだか人をばかにしたような、誇張を伴うているようにさえ思われ出した。家臣どもから、いい加減に扱われていた自分は、お祖父様からも手軽に操られているのではないかと思うと、忠直卿の瞳には、初めて不覚の涙が滲み始めた。

          三

 無礼講の酒宴にぐたぐたに酔ってしまった若武士たちは、九つのお土圭《とけい》が鳴るのを合図に総立ちになって退出しようとすると、急にお傍用人が奥殿から駆けつけて来た。
「各々方、静まられい! 殿の仰せらるるには、明日は犬追物のお催しがあるべきはずのところ、急に御変改があって、明日も、今日同様、槍術の大仕合いを催せらるる、時刻と番組とはすべて今日に変らぬとの仰せじゃ」と、双手を挙げて、大声に触れ回った。
 若武士の中には「やれやれ明日もか」と思う者もあった。今日の勝利をもう一度繰返すのかと、北叟笑《ほくそえ》む者もあった。多くの者は、酒を飲んだ後の勇ましい元気で、
「毎日続こうとも結構じゃ。明日もまたお振舞酒に思い切り酔うことができる」と、勇み立った。
 その翌日は、昨日と等しく、城中の兵法座敷が美しく掃き浄められ
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