瞳を持っている。
が、城主の忠直卿の風貌は、彼らよりも一段秀れて颯爽たるものであった。やや肉落ちて瀟洒《しょうしゃ》たる姿ではあるが、その炯々《けいけい》たる瞳はほとんど怪しきまでに鋭い力を放って、精悍の気眉宇の間に溢れて見えた。
忠直卿は、今微酔の回りかけている目を開いて、一座をずうっと見回された。
そこに居並んでいる百に余る成年は、皆自分の意志によっては、水火をも辞さない人々であることを思うと、彼は心の内からこみ上げて来る、権力者に特有な誇りを感ぜずにはいなかった。
が、彼の今宵の誇りはそれだけには止まっていなかった。彼は武士としての実力においても、ここに集っているすべての青年に打ち勝ったということが、彼の誇りを二重のものにしてしまった。
彼は今日もまた、家臣を集めて槍術の大仕合を催した。それは家中から槍術に秀れた青年を集めて、それを二組に分けた紅白の大仕合であった。
そして、彼自ら紅軍に大将として出場したのである。仕合の形勢は、始終紅軍の方が不利であった。出る者も、出る者も、敵のためにばたばたと倒されて、紅軍の副将が倒れた時には、白軍にはなお五人の不戦者があった。
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