は、天下第一人といったような誇りを持しながら、その年八月、都を辞して揚々とした心持で、居城越前の福井へ下った。
二
越前北の庄の城の大広間に、いま銀燭は眩《まばゆ》いばかりに数限りもなく燃えさかっている。その白蝋が解けて流れて、蝋受けの上にうずたかく溜っているのを見れば、よほど酒宴の刻《とき》が移っているのであろう。
忠直卿は国に就かれて以来、昼間は家中の若武士を集めて弓馬槍剣といったような武術の大仕合を催し、夜は彼らをそのままに引き止めて、一大無礼講の酒宴を開くのを常とした。
忠直卿は、祖父の家康から日本|樊※[#「口+會」、第3水準1−15−25]《はんかい》と媚びられた名が、心を溶かすように嬉しくて堪らなかった。彼は家中の若|武士《ざむらい》と槍を合わし、剣を交じえ、彼らを散々に打ち負かすことによって、自分の誇りを養う日々の糧《かて》としていたのであった。
今も、忠直卿を上座として、一段下った広間に大きい円形を描いている若武士は、数多い家中の若者の中から選ばれた武芸の達者であった。まだ前髪のある少年も打ち交じっていたが、いずれも筋骨逞しく、溌剌たる
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