、日本樊※[#「口+會」、第3水準1−15−25]という美称とを、自分が何人よりも秀れたる人間であるという証券として心のうちに銘じた。
 晴々とした心持であった。そこに並んでいる大名小名百二十名は、ことごとく忠直卿に賛美の瞳を向けているように思われた。
 彼は今まで自分の臣下の何人よりも、自分が優秀な人間であることを誇りとしていた。が、比べている相手はことごとく自分の臣下であることが物足らなかった。然るに、今は天下の諸侯の何人よりも真っ先に、大御所から手を取って歓待を受けている。
 自分には伯父に当る義直卿も頼宣卿も、何の功名をも挙げていない。まして同じく伯父に当る越後侍従|忠輝《ただてる》卿は、七日の合戦の手に合わず散々の不首尾である。伊達、前田、黒田という聞えた大藩の勲功も、越前家の功名の前には月の前の螢火よりもまだ弱い。
 こう考えると、忠直卿は家康の過ぐる日の叱責によって、一旦傷つけられようとした他人に対する優越感が、見事に回復されたばかりでなく、一旦傷つけられただけにその反動として、回復されたそれは以前のものよりも、もっと輝かしい力強いものであった。
 こうして越前少将忠直卿
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