つめて大酒宴を催した。自分が何よりも強く、誰人《だれびと》よりも勝って、祖父家康の賞め言葉の「日本樊※[#「口+會」、第3水準1−15−25]」という言葉が、まだ物足りぬようにさえ思われ出した。
彼は大坂城がまったく暮れてしまった空に、まだところどころ真紅に燃え盛っているのを見ながら、それを今日の自分の大功の表章として享楽しながら、しきりに大杯を重ねるのであった。
得意な上ずった感情のほかには、忠直卿の心には何物も残っていなかった。
越えて翌月の五日に城攻めに加わった諸侯が、京の二条城に群参した時に、家康は忠直卿の手を取りながら、
「御身が父、秀康世にありしほどは、よく我に忠孝を尽くしてくれたるわ、汝はまたこのたび諸軍に優れし軍忠を現したること、満足の至りじゃ。これによって感状を授けんと思えど、家門の中なればそれにも及ぶまい。わが本統のあらん限り、越前の家また磐石のごとく安泰じゃ」といいながら、秘蔵の初花《はつはな》の茶入を忠直卿に与えた。忠直卿はこの上なき面目を施して、諸大名の列座の中に自分の身の燦として光を放つごとく覚えた。彼は天下に欠くるものもないようなみち足りた感情が、胸
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