して、やや波立っている大洋を、巨鯨《きょげい》のごとく走っているのだった。
「見られい! あの勢いを」
寅二郎は敵愾《てきがい》の心も忘れて、嘆賞した。
「毛唐め! やりおる! やりおる! あのように皇国《みくに》の海を人もなげに走りおる!」
慷慨家《こうがいか》の金子は、翼なき身を口惜しむように、足摺《あしず》りしながら叫んだ。
「なに、今にメリケンヘ渡ってあの術を奪ってやるのだ。夷人《いじん》の利器によって夷人を追い払うのだ」
寅二郎は、熱海の湯の宿で作ってくれた大きい握り飯をほおばりながら叫んだ。
二
二人が、下田へ着いたのは、翌十八日の午後であった。昨日途中で見た二艘の火輪船は、港口近くに停泊していた。二人は宿を取ると、すぐ港を警衛している役人たちに会って、それとなく黒船の様子をきいてみた。
役人たちの話によると、この二艘は先発隊で、大将ペリーはまだ来ていない。その上、漢語ばかりでなく、オランダ語を話す通辞《つうじ》さえいないので、薪水《しんすい》積込《つみこ》みの応答にさえ困っているということであった。通辞がいないとすれば、潜《ひそ》かに乗り
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