船医の立場
菊池寛
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)所々《しょしょ》に
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)吉田|寅二郎《とらじろう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
[#…]:返り点
(例)吾欲[#レ]往[#二]米利堅[#一]
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一
晩春の伊豆半島は、所々《しょしょ》に遅桜《おそざくら》が咲き残り、山懐《やまぶところ》の段々畑に、菜の花が黄色く、夏の近づいたのを示して、日に日に潮が青味を帯びてくる相模灘が縹渺《ひょうびょう》と霞んで、白雲に紛《まぎ》れぬ濃い煙を吐く大島が、水天の際《きわ》に模糊《もこ》として横たわっているのさえ、のどかに見えた。
が、そうした風光のうちを、熱海から伊東へ辿る二人の若い武士は、二人とも病犬か何かのように険しい、憔悴《しょうすい》した顔をしていた。
二人は、頭を大束の野郎に結っていた。一人は五尺一、二寸の小男だった。顔中に薄い痘痕《あばた》があったが、目は細く光って眦《まなじり》が上り、鼻梁《はなばしら》が高く通っ
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