付けて、事情を陳《の》べて、便乗することは、絶対に不可能である。二人は、ペリーが乗っている将艦が入港するのを待つよりほかはなかった。
二十日の朝だった。寅二郎は、自分の指の股や腕首に、四、五日前からできている腫物《はれもの》が膿を持っているのに気がついた。
鎌倉の宿を立った朝、彼は自分の指間《しかん》や腕首や肱《ひじ》に、小さいイボのようなぶつぶつがいくつもできているのを知った。その夜小田原の宿で泊ると、小さいぶつぶつの各々が虫の匍《は》うような、いじりがゆさを与えた。彼はこれを幾度も掻いた。掻けば掻くほど、痒《かゆ》さが増した。
それが、三日、四日と経つうちに、数が多くなり、ことに昨夕《ゆうべ》は痒《かゆ》さのためによく眠れなかったが、今朝見ると、白く膿を湛えているのが、いくつもできている。それが、手指ばかりでなく、腹部にも腰の回りにも、腿《もも》にも、数は少ないが広がっている。紛《まが》う方なく、疥癬《しつ》である。
考えてみると、保土ヶ谷の宿で給仕に出た女中が、頻《しき》りに手指を掻いていたのを思い出した。あの女中から伝染《うつ》されたのだと思ったが、どうすることもできな
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