けついで渡してくれた。
かの青年は、鉛筆を受け取ると、それを不思議そうに一|瞥《べつ》して後、なんの躊躇もなく、木片の上に流暢《りゅうちょう》に書き始めた。十五分間の後、余地のないほどに字を書き詰められた木片が、ワトソンの手に返された。
ワトソンは、青年たちに目礼し、心のうちでこの不幸な青年たちの祝福を祈りながら、船へ帰って来た。そして、その木片を支那語の通辞である広東人《カントンじん》羅森《らしん》に示した。
羅森は次のように訳した。
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英雄一|度《たび》その志すところに失敗せば、かの行為は、奸賊《かんぞく》強盗《ごうとう》の行為をもって目せらる。我らは衆人環視のうちに捕えられ縛《いまし》められ、暗獄《あんごく》のうちに幽閉《ゆうへい》せられる。村の長老は、侮蔑をもって我らを遇し、我らを虐待すること甚し。
六十余州を踏破《とうは》するの自由は、我らの志を満足せしむる能わざるが故に、我らは五大洲を周遊せんことを願えり、これ我らが宿昔《しゅくせき》の志願なりき。我らが多年の計策は、一朝にして失敗せり。しかして今や我らは、隘屋《あいおく》のうちに禁錮せられ
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