「おお可憐な人々よ。君たちはいかにして捕われたか」と、大声で叫んだが、むろん通ずるはずはなかった。
 が、ワトソンが叫ぶのを見ると、二人の青年は、ワトソンが彼らを認めたのがわかったと見えて、かなり欣《よろこ》んだ。そして、一人の――かの Scabies を患っている青年は、自分の掌《てのひら》を直角に頸部《けいぶ》に当て、間もなく自分の首が切断せられることを示しながら、しかも哄然《こうぜん》と笑ってみせた。ローマ人カトーを凌《しの》ぐような克己的な態度がワトソンを圧服した。ワトソンは木柵を掴《つか》んでいる自分の手が、ある畏怖《いふ》のために、かすかに震えるのを感じた。彼は二人の日本青年の命を救うために、どんなことでもしなければならないような気になっていた。
 ふと見ると、笑った青年は、手で字をかく真似をしながら、筆紙をくれという意味を示した。ワトソンは、懐中を探って一本の鉛筆を探り当てた。が、身体中になんの紙片もなかった。すると、一人の日本少年が、どこからか薄い木片《こっぱ》を拾って来てくれた。が、一間も隔っている檻へ、いかにして差し入れようかと考えていると、老人の牢番が、それを受
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