から、市街の裏手の方へ回った。子供がうるさくついて来るので、手真似で追い払ったが、執拗《しつよう》にどこまでもついて来た。
彼らはふと営所らしい建物の前へ来た。日本の兵卒らしい人間が、槍のようなものを持って、その門を守っていた。
見ると、その営所を囲む木柵《もくさく》に多くの男女が集っていた。ワトソンが行くと、彼らはこの異邦人を恐れるように避けた。ワトソンは木柵に身を寄せながら営所の中を覗き込んだ。木柵から、一間と離れないところに、獣を入れるような檻《おり》があった。檻の中に、何かうごめいているようなものがあるので、ワトソンはじっと見つめた。すると、その格子の間から、蒼白い二つの人間の顔が現れて、彼を見てにっと微笑した。ワトソンは、恐ろしい戦慄が、身体を通じて流れるのを感じた。彼は、その人間の顔を認知《リコグナイズ》した。それは、紛《まぎ》れもなく、先夜自分たちの船を訪れたかの不幸なる日本青年たちであった。その檻は、二人の人間を容れるべく、あまりに狭かった。二人は膝を付き合わしながら、窮屈そうに座っていた。
二人の可憐《かれん》な有様が、ワトソンの心を暗くした。彼は思わず英語で、
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