た。かなり長い熟考の後に提督はいった。
「ゲビス君、私はこの青年に対する同情において、決して貴君に負けはしない。が、私は疑わしき人道よりも、もっと考慮しなければならないものを持っている。その上、かの青年たちの志望よりも、艦内における衛生の重んずべきことについては、諸君が一致していてくれるだろうと思う。それではウィリアムス君! かの青年たちを宥《なだ》めて、陸上へ返して下さい。ゲビス君! 君はかの青年たちを送り返すために、ボートの用意を命じてくれたまえ」
 そして、その命令は即時に実行された。
 外科医のワトソンは、二人の日本青年が舷梯《げんてい》から降されるのを見た。二人は目に涙を堪《たた》えながら、合衆国人の仁義心に訴えたが、それが容れられないと知ると、穏やかなわずかな抵抗を試みた後、その不幸な運命に服従した。彼らのつつましい悪怯《わるび》れない態度を見たワトソンは、その夜船室の寝台で、終夜眠れなかった。

          四

 不幸な日本青年についての事件が起ってから、三日目の朝、ワトソンは、他の一人の士官と一緒に海岸に上陸した。
 よく晴れた一日だった。二人は海岸を散歩して
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