って生命よりも大切な大小を捨てている。彼らは海外へ渡航するために、生命をさえ払おうとしている……」
「しかし、ゲビス君!」いつもは寡言《かごん》な提督《ていとく》ペリーが、重々しい口を開いた。「私も、あの青年たちの希望を遂げさせたいという感情においては、君と異らない。が、しかし私は横浜において、合衆国の国家と日本の国家との間の条約を結んだ。その私は、私情をもって、日本の法律に背《そむ》こうとする日本人を扶《たす》けることはできない。が、私は望む、知識に渇《う》えている日本の青年が自由にわが国に到来する日が、間もなく来ることを。そして現在この二人の青年に対する庇護《ひご》を拒むことは、かえってそういう未来の近づくのを早めるゆえんではないかと思う」
 ゲビスはちょっと頭を傾けたが、またすぐ叫んだ。
「閣下、貴下の言葉は私を首肯《しゅこう》させる。が、しかし公明正大な好奇心によってわが国へ渡航せんとするこの愛すべき青年の身の上を考えてやって下さい。われわれが彼らを拒絶することは、彼らを断頭台《だんとうだい》へまで追い上げることを意味している。われわれは、彼らを陸《おか》へ追いやれば、彼らはす
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