上るような歓喜を感ずる。私は提督閣下が、この青年の請に耳をかさんことを切望するものです」
 まだ三十を越して間もないゲビスは、若い瞳を輝かし、卓を軽く叩きながら叫んだ。
「あなたは、あまりに興奮し過ぎる。あなたはもっと現実を見なければいけない」顎髭《あごひげ》を蓄《たくわ》えた五十近い艦長は、若者を宥《なだ》めるようにいった。「あなたは、物事を表面だけで解釈してはならない。彼らの申し分はよい。我々の同情を得るに十分だ。が、しかし彼らが、申し分以外の卑劣な動機で動いているかも知れないということを、我々は一応考えてみる必要がある。日本人との短日月の交渉によっても、彼らがどんなに怜悧《れいり》であるかということがわかった。しかも悪賢《わるがしこ》いといってもよいほど、怜悧であることがわかった。私は、先日の手紙を見た時から、こんな疑いを起した。あの青年二人は、日本政府の間者ではないかと考えた。あんな立派な文章を書く日本青年が、日本政府によって重用されていないわけはないと思う。彼らは日本政府の役人に違いない。見ずぼらしい青年に扮《ふん》して、我々を試さんとして来たのである。日本の法律は、日本人の
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