、舷側へ幾度も叩き付けられた。
船上に立って居る番兵に、その音が聞えたのだろう。手に長い棒を持った夷人が、怒り罵りながら舷梯を駆け降りて来て、二人の乗った舟を、その棒で突き出そうとした。突き出されては堪らないと思ったので、寅二郎は、素早く舷梯へ飛び移った。重輔は、纜《ともづな》を梯子に移った寅二郎に渡そうとした。が、夷人は容赦もなく舟を突き出すので、重輔もあわてて舷梯へ飛び移った。そして、小舟の纜を手放してしまった。
舟には、二人の大小と荷物とを残してあった。が、旗艦に乗った以上、ともかくもなると思ったので、小舟の流れ去るのを顧みなかった。むろん、顧みる余裕もなかったが。
二人を船上へ拉《らっ》した夷人は、二人が船を見物に来たのだと思ったのだろう。二人に羅針盤を見せたりした。二人は首を振って、筆と紙とを求めた。矢立《やたて》も懐紙も小舟へ残して来たのである。
間もなく、日本語の通辞ウィリアムスが出て来、そして二人は船室へ導かれた。ギヤマンのランプが室内を真昼のように、煌々《こうこう》と照らしていた。
室内には、通辞のほかに、二人の夷人が立ち会った。一人は副艦長のゲビスで、他は
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