の光で懐紙に「|吾欲[#レ]往[#二]米利堅[#一]《われメリケンにゆかんとほっす》|君幸請[#二]之大将[#一]《きみさいわいこれをたいしょうにこえ》」と、手早く認《したた》めて、その紙片を持ちながら、舷梯《げんてい》をかけ上った。が、不幸にもその船には、通辞がいなかった。老いた夷人は、寅二郎からその紙片を受け取ると別の紙に横行の字をかいて、二つの紙片を寅二郎に返しながら、ポウワタン船《ふね》を指して、手真似であの船へ行けといった。二人には、その意味がすぐ分かったけれども、乗ってきた小舟で、更に一町の沖合へ進むことは至難のことであった。寅二郎は、船上に吊ってあるバッテイラを指して、手真似であれで連れて行けと頼んだが、きかれなかった。
疲れ切った身体で、二人はポウワタン船まで漕いで行った。沖へ出れば出るほど波が荒くなった。寅二郎も重輔も、手掌《てのひら》に水泡《まめ》がいくつもできた。が、舟は容易に彼らの思う通りにならなかった。内側へ付けようと思ったのが、外洋へ向った波の荒い外側に付いてしまった。しかも舷側と舷梯との間に挟まれ、激しい波に煽《あお》られ、凄《すさま》じい音を立てながら
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