た。すると国司は、うるさがって、この女を追い出せと、役人達に云いつけた。多勢の役人が、寄ってたかって連れ出そうとするが、ビクとも動かない。たちまち、役人を振りはらって国司に近づくと、片手で国司を引き倒すと、そのまま引きずって、国府の門外へ連れ出した。国司は、青くなって、「返す返す」と、悲鳴を揚《あ》げた。この女は、呉竹《くれたけ》をねり糸のように、くしゃくしゃにする位強かった。ところがこうした強い女も、封建的《ほうけんてき》な家庭制度には敵《かな》わない。良人の父母が云うには、国司を手ごめにした女を妻にしていては、お前はこの先、芽の出るわけはない。私達にも、どんなめいわくが、かかるかもしれない、早速|離縁《りえん》すべきだと。それで主人の郡長は、元々意気地なしだったと見え、父母の教に従って、たちまち妻を離縁した。
尾張の女は仕方なく、故郷へ帰って住んでいた。ある時、故郷を流れている川の南辺へ行って、洗濯《せんたく》をしていると、折から荷物を積んだ船が通りかかった。船の人々がこの女をからかった。あまり、しつこいので、「女だと思って馬鹿にすると、頬《ほ》っぺたをなぐるぞ」と、いった。する
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