、口取の男をふり切って、走り出した。
 たくさんの男が、跡《あと》を追いかけたがどうにも手におえない。中には、引きづなに取りすがる者もいたが皆《みな》引き放されてしまう。ちょうど、そこへお兼が通りかかった。彼女は高いあしだをはいていたが、傍《かたわら》をかけ通ろうとする馬の引きづなのはずれを、あしだでむずとふまえた。すると馬が勢《いきおい》をそがれてそのまま止まった。人々はそれを見てあれよあれよと目をおどろかした。
 さすがにあしだは砂地に、足首のところまで、埋《う》まっていた。これ以来、お兼の大力が世間に知られたのである。常に、五、六人位の男が集まっても、私を自由に出来ませんよ、といった。五つの指ごとに、弓を一張ずつはらせたことがある。弓は、二人張三人張などいうから、指一本でもたいした力である。

       四

 昔、美濃国《みののくに》、小川の市《いち》に力強き女があった。身体《からだ》も人並はずれて大きく百人力といわれていた。仇名《あだな》を美濃狐《みのぎつね》といった。四代目の先祖が、狐と結婚したと云《い》うことであった。狐と大力とは別に関係はないわけだが、狐の兇悪《きょ
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