、近頃《ちかごろ》は同じ遊女仲間の一人に、心をうつして、しげしげ通っているという噂《うわさ》が、お兼の耳に伝わって来た。お兼は、安からず、思っていた。ある晩、ひさしぶりに法師がやって来た。いっしょに物語りしている間、お兼は何もいわなかった。いよいよ床《とこ》に入ってから、お兼はその弱腰《よわごし》を両足でぐっとはさんだ。法師は、初めたわむれだと思って「はなせはなせ」といったが、お兼はいよいよ力をいれたので、法師は真赤になってこらえていたが、やがて蒼白《そうはく》になってしまった。すると、お兼は「おのれ、法師め、人を馬鹿《ばか》にして、相手もあろうに同じ遊女仲間の女に手出しをする。少し思い知らしてやるのだ」といって、一しめしめたところ、法師は泡《あわ》を吹《ふ》いて気絶した。それで、やっと足をはずしたが、法師はくたくたとなったので、水を吹っかけなどして、やっと蘇生《そせい》させた。
その頃、東国から大番(京都守衛の役)のために上京する武士達が、日高い頃に、かいづに泊《とま》った。そして、乗って来た馬どもの脚《あし》を、湖水で冷していた。すると、その中のかんの強い馬が一頭物に驚いたと見え
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