刀を持つ手を逆にねじあげたら、その男の肩《かた》の骨はたちまち砕《くだ》けただろう。危い目に逢《あ》っていたのは、妹でなくてその男だったのだ。殺すわけはないではないか)と、云って逃がしてやった。そして、言葉をつづけた。(妹は、わしより二倍は強い。男に生れたら、日本中に相手はないのだが……)と、嘆息《たんそく》した。
七
女大力物語のついでに、男の方も二、三人書いておく。叡山《えいざん》の西塔《さいとう》に実因|僧都《そうず》という人がいたが、この人が無類の大力であった。ある日、宮中の御加持《ごかじ》に行って、夜更《よふ》けて退出すると、何かの手違いで、供の者が一人もいない。仕方なく衛門の陣《じん》を出ようとすると、軽装した男が一人寄って来て(お供がいないのですか。私が負って差しあげましょう)と云う。それはありがたいと、云って負われると、大宮二条の辻《つじ》まで行って、(ここで降りてくれ)と云う。僧都が(いや、わしの行く先は、ここではない)と、云うと、その男が声を荒らげて(命は惜《お》しくないのか。その衣《きぬ》を脱《ぬ》いで、どこへでも勝手に行け)と、いった。すると
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