子《ひょうし》ぬけがして、妹の家の方へ引き返して来た。先刻、盗人は村人達に追われて逃げ損い、光遠の妹の家に走り込んで、(この女房を人質に取った。寄り近づく者あらば、この女房をさし殺すぞ)と、村人達に宣言したのである。それでその中の一人が、あわてて兄さんの家へ知らせに行ったのであった。
兄が相手にしないので、その村人は一体どんな容子《ようす》かと家の中をのぞいて見た。すると、盗人は光遠の妹を背後から両足で抱《だ》いて、その胸に逆手《さかて》に持った短刀をさしあてている。光遠の妹は、恥《はずか》しいと見えて、袖《そで》で顔をかくしているが、だんだん退屈して来たと見え板の間に荒づくりの矢竹が二、三十ちらばってるのをいじっていたが、それを板の間におしつけると一本ずつわらをにじるように、にじりつぶしている。のぞいていた村人が、びっくりしたが、盗人もそれに気が付いたと見え、顔色が急に青ざめたと見ると、たちまち人質を放して逃げ出した。いったん怖気《おじけ》づいただけに、たちまち村人に捕えられてしまった。その男を村人達は、光遠の家へ連れて行って殺しましょうかと云うと、光遠は笑って(もし妹がその男の太
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