にみちて》秋気清《しゅうききよし》
数行過雁月三更《すうこうのかがんつきさんこう》
越山併得能州景《えつざんあわせえたりのうしゅうのけい》
遮莫家郷《さもあらばあれかきょう》|憶[#二]遠征[#一]《えんせいをおもう》
[#ここで字下げ終わり]
 の詩があり、歌には、
[#天から3字下げ]ものゝふのよろひの袖を片しきし枕にちかき初雁《はつかり》の声
 などある。現代の政治家や実業家の歌などよりは、はるかにうまい。
 また兵学に精通し、敬神家で、槍は一代に冠絶し、春日《かすが》の名槍を自在に繰り、剣をよくして、備前|長船《おさふね》小豆長光二尺四寸五分の大刀を打ち振うのであるから、真に好個の武将である。
 信玄が重厚精強であれば、謙信は尖鋭果断のかんしゃく持である。
 太田|資正《かずまさ》謙信を評して、「謙信公のお人となりを見申すに十にして八つは大賢人、その二つは大悪人ならん。怒りに乗じて為したまうこと、多くは僻事《ひがごと》なり。これその悪《あ》しき所なり。勇猛にして無欲清浄にして器量大、廉直にして隠すところなく、明敏にして能く察し、慈恵にして下《しも》を育す、好みて忠諫《ちゅうかん
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