川中島合戦
菊池寛

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)甚《はなは》だ

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)琵琶歌|等《など》

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(例)[#ここから4字下げ]

 [#…]:返り点
 (例)捲[#レ]簾
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 川中島に於ける上杉謙信、武田信玄の一騎討は、誰もよく知って居るところであるが、其合戦の模様については、知る人は甚《はなは》だ少い。琵琶歌|等《など》でも「天文二十三年秋の半ばの頃とかや」と歌ってあるが、之は間違いである。
 甲越二将が、手切れとなったのは、天文二十二年で、爾来二十六年間の交戦状態に於て、川中島に於ける交戦は数回あったが、其の主《おも》なるものは、弘治元年七月十九日|犀川《さいがわ》河畔の戦闘と永禄四年九月十日の川中島合戦との二回だけである。他は云うに足りない。此の九月十日の合戦こそ甲越戦記のクライマックスで、謙信が小豆《あずき》長光の銘刀をふりかぶって、信玄にきりつくること九回にわたったと言われている。
 武田信玄も、上杉謙信も、その軍隊の編制に於て、統率に於て、
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