。謙信は忽ち甲軍の出動を予感した。「しのびの兵」(透波《スッパ》間諜)のもち来《きた》る情報も入ったので、甲軍が隊を二分し、一は妻女山の背後に廻り、一は川中島に邀撃《ようげき》の計画であることが分ったので、我先ず先んじて出で奇襲を試みようと決心した。謙信の得意思うべしである。このことを期しての二十四日の辛抱であったのだ。穴中の虫は、啄木鳥の叩くを待たず自ら躍り出でて信玄を襲わんと云うのである。この時の越軍の軍隊区分は次の如くで、やがて行動を開始した。時に午後六時である。
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先鋒    柿崎大和守
中軍(旗本)色部修理進
      竹俣三河守
      村上 義晴
      島津 規久
右備    新発田《しばた》尾張守
      山吉孫次郎
      加地彦次郎
左備    本庄越前守
      安田治部少輔
      長尾遠江守
後備    中条越前守
      古志駿河守
後押    甘粕近江守
小荷駄(輜重《しちょう》)直江大和守
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 さて一般士卒には、
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一、明十日御帰陣の旨|仰出《おおせいだ》
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