人の勝平にどんな影響を与へてゐるかと云ふ事は、夢にも気の付いてゐないやうに、無遠慮に自由に話し進んだ。
「でも、お招《よ》ばれを受けてゐて、悪口を云ふのは悪いことよ。さうぢやなくつて。」
令嬢は、右の手に持つてゐる華奢な象牙骨の扇を、弄《まさぐ》りながら、青年の顔を見上げながら、遉《さすが》に女らしく云つた。
「いや、もつと云つてやつてもいゝのですよ。」と、青年はその浅黒い男性的な凜々しい顔を、一層引き緊めながら、「第一華族階級の人達が、成金に対する態度なども、可なり卑しいと思つてゐるのですよ。平生門閥だとか身分だとか云ふ愚にも付かないものを、自慢にして、平民だとか町人だとか云つて、軽蔑してゐる癖に、相手が金があると、平民だらうが、成金だらうが、此方《こつち》からペコ/\して接近するのですからね。僕の父なんかも、何時の間にか、あんな連中と知己《しりあひ》になつてゐるのですよ。此間も、あんな連中に担がれて、何とか云ふ新設会社の重役になるとか云つて、騒いでゐるものですから、僕はウンと云つてやつたのですよ。」
「おや! 今度は、お父様にお鉢が廻つたのですか。」女は、青年の顔を見上げて、ニツ
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