真珠夫人
菊池寛
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)焦燥《もどか》しさ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)|お母親さん《マヽン》!
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)ウ※[#小書き片仮名ヰ、17−上−16]スキイ
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いら/\させた
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
奇禍
一
汽車が大船を離れた頃から、信一郎の心は、段々烈しくなつて行く焦燥《もどか》しさで、満たされてゐた。国府津迄の、まだ五つも六つもある駅毎に、汽車が小刻みに、停車せねばならぬことが、彼の心持を可なり、いら立たせてゐるのであつた。
彼は、一刻も早く静子に、会ひたかつた。そして彼の愛撫に、渇《かつ》ゑてゐる彼女を、思ふさま、いたはつてやりたかつた。
時は六月の初《はじめ》であつた。汽車の線路に添うて、潮のやうに起伏してゐる山や森の緑は、少年のやうな若々しさを失つ
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