云ふことを、ぢつと聞き澄してゐた。
「成金だとか、何とかよく新聞などに、彼等の豪奢な生活を、謳歌してゐるやうですが、金で贏《かち》うる彼等の生活は、何《ど》んなに単純で平凡でせう。金が出来ると、女色を漁る、自動車を買ふ、邸を買ふ、家を新築する、分りもしない骨董を買ふ、それ切りですね。中に、よつぽど心掛のいゝ男が、寄附をする。物質上の生活などは、いくら金をかけても、直ぐ尽きるのだ。金で、自由になる芸妓などを、弄んでゐて、よく飽きないものですね。」
 青年は、成金全体に、何か烈しい恨みでもあるやうに、罵りつゞけた。
「飽きるつて。そりやどうだか、分りませんね。貴方のやうに、敏感な方なら、直ぐに飽きるでせうが、彼等のやうに鈍い感じしか持つてゐない人達は、何時迄同じことをやつてゐても飽きないのぢやなくつて!」女は、美しい然し冷めたい微笑を浮べながら云つた。
「貴方は、悪口は僕より一枚上ですね。ハヽヽヽヽヽ。」
 二人は相顧みて、会心の笑ひを笑ひ合つた。
 黙つて聞いてゐた勝平の顔は、憤怒のため紫色になつた。

        四

 まだ年の若い元気な二人は、自分達の会話が、傍に居合す此邸の主
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