にも考へ及ばないらしく、勝平の方などは、見向きもしないで話し続けた。
「お金さへかければいゝと思つてゐるのでせうか。」
美しい令嬢は、その美しさに似合はないやうな皮肉な、口の利き方をした。
「どうせ、さうでせう。成金と云つたやうな連中は、金額と云ふ事より外には、何にも趣味がないのでせう。凡ての事を金の物差で計らうとする。金さへかければ、何でもいゝものだと考へる。今日の園遊会なんか、一人宛五十円とか百円とかを、入れるとか何とか云つてゐるさうですが、あの俗悪な趣向を御覧なさい。」
青年は、何かに激してゐるやうに、吐き出すやうに云つた。
先刻から、聞くともなしに、聞いてゐた勝平は、烈しい怒《いかり》で胸の中が、煮えくり返るやうに思つた。彼は、立ち上りざま、悪口を云つてゐる青年の細首を捕へて、邸の外へ放り出してやりたいとさへ思つた。彼は若い時、東京に出たときに労働をやつた時の名残りに、残つてゐる二の腕の力瘤を思はず撫でた。が、遉《さすが》に彼の位置が、つい三四分前まで、あんなに誇らしく思つてゐた彼の社会的位置が彼のさうした怒を制して呉れた。彼は、ムラ/\と湧いて来る心を抑へながら、青年の
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