ーティ》に行きましたがね。とても、本日の盛況には及びませんね。尤も、此名園を見る丈《だけ》でも、来る価値は十分ありますからね。ハヽヽヽ。」
代議士の沢田は真正面からお世辞を云ふのであつた。
「いゝ天気で、何よりですよ。ハヽヽヽヽ。」と、勝平は鷹揚に答へたが、内心の得意は、包隠《つゝみかく》すことが出来なかつた。
「素晴らしい庭ですな。彼処《あすこ》の杉林から泉水の裏手へかけての幽邃な趣は、とても市内ぢや見られませんね。五十万円でも、これぢや高くはありませんね。」
さう云ひながら、澤田は持つてゐたビールの杯《コップ》を、またグイと飲み乾した。色の白い肥つた顔が、咽喉の処まで赤くなつてゐる。彼は、転げかゝるやうに、勝平に近づいて右の二の腕を捕へた。
「主人公が、こんな所に、逃げ込んでゐては困りますね。さあ、彼方《あつち》へ行きませう。先刻も我党の総裁が、貴方《あなた》を探してゐた。まだ挨拶をしてゐないと云つて。」
澤田は、勝平をグン/\麓の方へ、園遊会の賑ひと混雑の方へ引きずり込まうとした。
「いや、もう少しこの儘にして置いて下さい。今日一時から、門の処で一時間半も立ち続けてゐた上に
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