を知つた。彼は、金さへあれば、何でも出来ると思つた。現に、此の庭園なども、都下で屈指の名園を彼が五十万円に近い金を投じて買つたのである。現に、今日の園遊会も、一人宛百金に近い巨費を投じて、新邸披露として、都下の名士達を招んだのである。
 聞えて来る笛の音も、鼓の音も奏楽の響も、模擬店でビールの満を引いてゐる人達の哄笑も、勝平の耳には、彼の金力に対する讃美の声のやうに聞えた。『さうだ。凡ては金だ。金の力さへあればどんな事でも出来る』と、心の裡で呟きながら、彼が日頃の確信を、一層強めたときだつた。
「いや、どうも盛会ですな。」と、ビールの杯《コップ》を右の手に高く翳しながら、蹌踉《ひよろ/\》と近づいて来る男があつた。それは、勝平とは同郷の代議士だつた。その男の選挙費用も、悉く勝平のポケットから、出てゐるのだつた。
「やあ! お蔭さまで。」と、勝平は傲然と答へた。『茲《こゝ》にも俺の金の力で動いてゐる男が一人ゐる。』と、心の中で思ひながら。

        二

「よく集まつたものですね。随分珍しい顔が見えますね。松田老侯までが見えてゐますね。我輩一昨日は、英国大使館の園遊会《ガードンパ
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