階級の男なぞであつたら、堪らないと思つた。彼はでつぷりと肥つた男が、実印を刻んだ金指輪をでも、光らせながら、大男に連れられて、やつて来るのではないかしらと思つた。それとも、意外に美しい女か何かぢやないかしらと思つた。が、まさか相当な位置の婦人が、合乗を承諾することもあるまいと、思ひ返した。
彼は一寸した好奇心を唆られながら、暫らくの伴侶たるべき人の出て来るのを、待つてゐた。
三分ばかり待つた後だつたらう。やつと、交渉が纏つたと見え、大男はニコ/\笑ひながら、先きに立つて待合所から立ち現れた。その刹那に、信一郎は大男の肩越に、チラリと角帽を被《かぶ》つた学生姿を見たのである。彼は同乗者が学生であるのを欣んだ。殊に、自分の母校――と云ふ程の親しみは持つてゐなかつたが――の学生であるのを欣んだ。
「お待たせしました。此の方です。」
さう云ひながら、大男は学生を、信一郎に紹介した。
「御迷惑でせうが。」と、信一郎は快活に、挨拶した。学生は頭を下げた。が、何《なん》にも物は云はなかつた。信一郎は、学生の顔を、一目見て、その高貴な容貌に打たれざるを得なかつた。恐らく貴族か、でなければ名門の子
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