ツて、少年か何かのやうに、赤くなつてしまつた。
深海色にぼかした模様の錦紗縮緬の着物に、黒と緑の飛燕模様の帯を締めた夫人は、そのスラリと高い身体を、くねらせるやうに、椅子に落着けた。
「本当に、盛んなお葬式でしたこと。でも淳さんのやうに、あんなに不意に、死んでは堪りませんわ。あんまり、突然で丸切り夢のやうでございますもの。」
初対面の客に、ロク/\挨拶もしない中《うち》に、夫人は何のこだはりもないやうに、自由に喋べり続けた。信一郎は、夫人からスツカリ先手を打たれてしまつて、暫らくは何《なん》にも云ひ出せなかつた。彼は我にもあらず、十分受け答もなし得ないで、たゞモヂ/\してゐた。夫人は、相手のさうした躊躇などは、眼中にないやうに、自由で快活だつた。
「淳さんは、たしかまだ二十四でございましたよ。確か五黄でございましたよ。五黄の申《さる》でございませうかしら。妾《わたし》と同じに、よく新聞の九星を気にする方でございましたのよ。オホヽヽヽヽ。」
信一郎は、美しい蜘蛛の精の繰り出す糸にでも、懸つたやうに、話手の美しさに酔《ゑ》ひながら、暫らくは茫然としてゐた。
二
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