瀕死の眼にも恋人の顔が分つたのだらう、彼女の衰へた顔にも嬉しげな微笑の影が動いた。それは本当に影に過ぎなかつた。微笑む丈《だけ》の力も、彼女にはもう残つてゐなかつたのだ。
「直也さん!」
 瑠璃子は、消えんとする命の最後の力を、ふりしぼつたのだらう、が、しかし、それはかすかな、うめくやうな声として、唇を洩れたのに過ぎなかつた。
「何です? 何です?」
 直也は、瑠璃子の去らんとする魂に、縋り付くやうに云つた。
「わ――た――し、あなたには何も云ひませんわ。たゞお願ひがあるのです。」
 それだけ続けるのが、彼女には精一杯だつた。
「願ひつて何です?」
「聴いてくれますか。」
「聴きますとも。」
 直也は、心の底から叫んだ。
「あの――あの――美奈さんを、貴君《あなた》にお頼みしたいのです。美奈さんは――美奈さんは――みなし――みなし――みなしご……」
 そこまで、云つたとき、彼女の張り詰めた気力の糸が、ぶつりと切れたやうに、彼女はぐつたりとなつてしまつた。
 母は、直也を呼んだことが、彼女自身のためではなく、母が一番信頼する直也に、自分の将来を頼む為であつたかと思ふと、美奈子は母の真
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