に襲はれながら、続いて廊下へ出ると、支配人は声をひそめた。
「お取込みの中を、大変恐れ入りますが、今箱根町から電話がかゝつてゐるのです。実は蘆の湖で今夕水死人の死体が上つたと云ふのですが、それが二十三四の学生風の方で、舟の中に残して置いた数通の遺書で見ると、富士屋ホテルにて、青木、と書いてあつたと云ふのです。」
 そこまで、聴いたとき、美奈子は自分の立つてゐる廊下の床が、ズーツと陥込むやうな感じがしたかと思ふと、支配人が駭いて彼女の右の肩口を捕へてゐた。
「あゝ危い! しつかりして下さい!」
 彼女は、最後の力で、自分のよろめく足を支へた。が、暫らくの間、天井と床とがグル/\廻るやうな気がした。
「いや、お駭《おどろ》かせしてすみません、たゞ青木さんの東京のお処だけが承りたかつたのです。」
 美奈子が、顫へる声で、それに答へると、支配人は幾度も詫びながら、倉卒として去つた。
 もう、美奈子の弱い心は、人生の恐ろしさに、打ち砕かれてしまつてゐた。彼女が部屋へ帰つて来たとき、彼女の顔色は、傷《きずつ》いてゐる瑠璃子のそれと少しも変つてゐなかつた。
 が、丁度その時に、瑠璃子は長い昏睡から覚
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