からは、涙が、潸然《さんぜん》としてはふり落ちた。娘のかうした運命が、九分までは自分の責任だと思ふと、娘の額に手をやつた男爵の手は、わな/\顫へずにはゐなかつた。
美奈子は、母の兄なる光一にも、電報を打つたけれども、恐らく彼は東京を離れてゐたのだらう、夜になつても姿を見せなかつた。
東京から急を聴いて馳け付けた女中や、執事などで、瑠璃子の床は賑やかに取巻かれた。が、母を――肉親は繋がつてゐなくとも心の内では母とも姉とも思ふ瑠璃子を、失はうとする美奈子の心細さは、時の経つと共に、段々募つて行つた。
丁度夜の十時に近い頃だつた。母はやゝ安眠に入つたと見え、囈語が、暫らく杜絶えて、いやな静けさが、部屋の裡に、漂つてゐたときだつた。廊下に面した扉《ドア》を、低く、聞えるか聞えないかに、トン/\と打つ音がした。女中が立つてそれを開いたが、直ぐ美奈子の所へ帰つて来た。
「あの、お嬢さま。ホテルの支配人の方が、一寸お目にかゝりたいと申してをります。」
美奈子は、立ち上つて扉《ドア》の所へ行つた。
「どうか、一寸こちらへ。」
支配人は、美奈子に廊下へ出ることを求めた。美奈子が、一寸不安な気持
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