するに就て、最近の動機ともなつたやうな事件がありましたでせうか。」
 美奈子は、何とも答へられなかつた。たゞ、彼女自身、恐ろしい罪の審問を受けてゐるやうに、心が千々に苛なまれた。

        四

 夜は明け放れた。今日も真夏の、明るい太陽が、箱根の山々を輝々として、照し初めた。が、人事不省の裡に眠つてゐる瑠璃子は、昏々として覚めなかつた。生と死の間の懸崖に、彼女の細き命は一縷《いちる》の糸に依つて懸つてゐた。
 その日の二時過ぐる頃、美奈子の打つた急電に依つて、予《かね》て美奈子の傷を治療したことのある外科の泰斗近藤博士が、馳け付けた。が、博士に依つて、あらゆる手当が施された後も、瑠璃子の意識は返つて来なかつた。
 その前後から、烈しい高熱に襲はれ初めた瑠璃子は、取りとめもない囈語《うはごと》を云ひつゞけた。その囈語の中にも、美奈子は、母が直也と呼ぶのを幾度となく聴いた。
 夕暮になつて、瑠璃子の父の老男爵が馳け付けた。瑠璃子の近来の行状を快く思つてはゐなかつた男爵は、その娘と一年近くも会つてゐなかつた。が、死相を帯びながら、瀕死の床に横はつてゐる瑠璃子を見ると、老いた男爵の眼
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