眼は、にぶい光を放ち、眉は釣り上がり、唇は刻一刻紫色に変つてゐた。
美奈子が、寝室を出て、居間の方にある卓上の電話を取り上げたときだつた。彼女は、青年の寝室の扉《ドア》が開かれて、其処に寝台が空しく横たはつてゐるのを知つた。
恐しい悲劇の実相が、彼女に判然と判つた。
三
医者が来るまで、瑠璃子は恐ろしい苦痛に悶えてゐた。が、彼女はその苦痛を、ぢつと堪へてゐた。華奢な身体に、致命の傷を負ひながら、彼女は悲鳴一つ揚げなかつた。たゞ抑へ切れない苦痛を、低いうめき声に洩してゐるだけであつた。
美奈子の方が、却つて逆上してゐた。彼女は、母の胸に縋りながら、
「お母様! しつかりして下さい。しつかりして下さい!」と、おろ/\叫んでゐるだけだつた。
その裡に、瑠璃子は、ふと閉してゐた眼を開いた。そして、異様な光を帯び初めた眸で、ぢつと美奈子を見詰めた。
「お母様! お母様! しつかりして下さい!」
美奈子は、泣き声で叫んだ。
「美奈さん!」
瑠璃子は、身体に残つてゐる力を、振りしぼつたやうな声を出した。
「わーたーし、わたし今度は、もう――駄目かも知れないわ。」
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