ではありません。青木君を弄んで間接に殺しながらまだそれにも懲《こ》りないで、青木君の弟である……」
「あゝもう沢山です。」青年は、相手に縋り付くやうな手付をして云つた。「判りました、よく判りました。が、証拠がありますか? 兄が弄ばれて、自殺を決心したと云ふ証拠がありますか?」
 青年の眸《ひとみ》は必死の色を浮べてゐた。
「ありますとも。お見せしませう。が、さう興奮しないで、ゆつくり気を落着けて下さい。」
 さう云ひながら、紳士は椅子を離れると、部屋の片隅に置いてある大きな鞄《トランク》に近づいて、それを開きながら、中から一冊のノートを取り出した。
「これです。此の筆蹟には覚えがあるでせう。」
 さう云ひながら、相手はノートを、籐の卓子《テーブル》の上に置いた。青年は、焼き付くやうな眼で、それをぢつと見詰めた。表紙の青木淳と云ふ字が、いかにも懐しい兄の筆蹟だつた。
「ぢや、拝見します。」
 彼はかすかに、顫へる手付で、そのノートを取り上げた。
 恐ろしい沈黙が部屋の中に在つた。ノートの頁《ページ》のめくられる音が、時々気味悪くその沈黙を破つた。
 二分三分、青年は、だまつて読みつゞけた
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