ようとしてゐるのです。」
青年は、改めて相手の顔を見直した。相手が可なり真面目で、自分に対して好意を持つてゐて呉れることが、直ぐ判つた。が、相手が妙に、意味ありげな云ひ廻しをすることが、彼のいら/\してゐる神経を、更にいら立たせた。
「それが一体|何《ど》う云ふことなのです。僕には少しも分りませんが。」
青年は、腹立たしげに、相手を叱するやうに云つた。
「それでは、もつと具体的に云ひませう。青木君! 貴君は、一日も早く、荘田夫人から遠ざかる必要があるのです。さうです。一日も早くです。あの夫人は、貴君の身体を呑んでしまふ恐ろしい深淵です。貴君のお兄《あにい》さんは、それに呑まれてしまつたのです。」
紳士は、さう云つて、ぢつと青年の顔を見詰めた。
「貴君は、兄さんの誤《あやまり》を再び繰り返してはなりません。これは、私の忠告ではありません、死んだ兄さんのお言伝です。よくお心に止めて置いて下さい!」
さう云ふかと思ふと、紳士は一寸青年に会釈したまゝ、階段をスタ/\と降りかけた、もう云ふ丈けのことは、スツカリ云つてしまつたと云ふ風に。
今度は、青年の方が、狼狽して呼び止めた。
「待つ
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