うです。青木です。ですが、貴君は……」
 青年は、一寸相手が、無作法に呼び止めたことを咎めるやうに訊き返した。
「いや、御存じないのは、尤もです。」
 さう云ひながら、紳士は階段を二三段上りながら、青年に近づいた。
「お兄さんの知人と云つても、ホンのお知合になつたと云ふ丈《だ》けに過ぎないのですが、然しその……」
 紳士は、一寸云ひ澱んだ。
 青年は、自分がいら[#「いら」に傍点]/\し切つてゐるときに、何の差し迫つた用もなささうな人から、たゞ兄の知人であると云つた理由|丈《だけ》で、呼び止められるのに堪へなかつた。
「さうですか。それでは、又いづれ、ゆつくりとお話しませう。一寸只今は、急いでゐますから。」
 さう云ひ捨てると、青年は振り切るやうに、残つた階段を馳け上らうとした。
 すると、紳士は意外にも、しつこく青年を呼び止めた。
「あゝ一寸お待ち下さい。私も急に、貴君にお話したいことがあるのです。」

        三

「急に話したいことがある。」未知の男からしつこく云はれると、青年はむつ[#「むつ」に傍点]とした。何と云ふ執拗な男だらう。何と云ふ無礼な男だらうと腹立たしかつた
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