つ》き当つたため、彼の疲れてゐた身体は、ひよろ/\として、二三段よろけ落ちた。
「いやあ。失礼!」
 相手の人は、駭いて彼を支へた。が、衝突の責任は、無論|此方《こつち》にあつた。
「いゝえ。僕こそ。」
 彼は、さう答へると、軽く会釈したまゝで、相手の顔も、碌々見ないで、そのまゝ階段を馳け上つた。
 が、彼が六七段も、馳け上つたときだつた。まだ立ち止まつて、ぢつと彼の後姿を見てゐた相手の男が、急に声をかけた。
「青木君! 青木君ぢやありませんか。」
 不意に、自分の名を呼ばれて、青年は駭いた。彼は、思はず階段の中途に、立ち竦んでしまつた。
「えゝつ!」
 青年は、返事とも駭きとも分らないやうな声を出した。
「間違つてゐたら御免下さい! 貴君は、青木君ぢやありませんか。あの、青木淳君の弟さんの。」
 相手は、階段の下から、上を見上げながら、落着いた声でさう訊いた。青年は、やゝほの暗い電燈の光で、振り上げた相手の顔を見た。意外にも、それは先刻散歩へ出るときに、玄関で逢つた、彼の見知らない紳士であつた。彼は、どうして此の男が、自分の名前を知つてゐるのだらうかと、不審に思ひながら答へた。
「さ
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