手のステッキを握りしめた。
二
ホテルの門に辿り着いたときにも、長い道を馳け続けたために、身体こそやゝ疲れてゐたものの、彼の憤怒は少しも緩んではゐなかつた。部屋へ飛び込めば、直ぐ鞄《トランク》の中へ、凡てのものを投げ込むのだ。もう、こんな土地には一分だつてゐたくない。彼女が、帰つて来ない裡に、一刻も早く去つてしまふのだ。
彼は心の裡で、さうした決心を堅めながら、烈しい勢で、玄関へ駈け上つた。其処に立つてゐたボーイが、彼の面色《めんしよく》を見ると、駭《おどろ》いて目を眸《みは》つた。それも、無理はなかつた。彼の眼は血走り、色は蒼ざめ、広い白い額に、一条の殺気が迸つて、温和な上品な平素の彼とは、別人のやうな、血相を示してゐたからである。が、ボーイが、駭かうが駭くまいが、そんなことはどうでもよかつた。彼は駭いたボーイを尻目にかけながら、廊下を走るやうに馳け過ぎて、廊下の端にある二階への階段を、烈しく駆け上らうとしたときだつた。彼は余りに急いだため、余りに夢中であつたため、丁度その時、上から降りようとした人に、烈しく打《ぶ》つ衝《つか》つてしまつた。
余りに強く衝《
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