れながら、夏の夜の宵闇に、その白い頬と白い頬とを触れ合せた。
火を煽る者
一
青年の身体は、燃えた。
烈しい憤怒と恨みとのために、火の如く燃え狂つた。
彼は、その燃え狂ふ身体を、何物かに打ち突けたいやうな気持で走つた。闇の中を、滅茶苦茶に走つた。闇の中を、礫《つぶて》のやうに走つた。滅茶苦茶に、走りでもする外、彼の嵐のやうな心を抑へる方法は何もなかつた。樹にでも、石にでも、当れば当れ、川にでも渓《たに》にでも陥らば陥れ、彼はさうした必死的《デスペレエト》な気持で、獣のやうに風のやうに、たゞ走りに走つた。
強羅の電車停留所まで、一気に馳け降りたけれども、其処には電車の影は、なかつた。彼は、そこに二三分間待つたが、心の底から沸々《ふつ/\》と湧き上つてゐる感情の嵐は、彼を一分もぢつとさせてゐなかつた。電車を待つてゐるやうな心の落着は、少しもなかつた。彼は、宮の下まで、走りつゞけようと決心した。さう決心すると、前よりは、もつと烈しい勢で、別荘が両方に立ち並んだ道を、一散に馳け始めた。
初め馳けてゐる間、彼の頭には、何もなかつた。たゞ、彼をあんなに恥《はづか
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