てゐる苦悶、さうしたものが美奈子に、ヒシ/\と感ぜられた、自分をこれほど迄、愛して呉れる母には、自分も凡てを犠牲にしてもいゝと思つた。
「お母様! もう何も、仰しやつて下さいますな、妾《わたし》、青木さんのことなんか、ほんたうに何でもないのでございます。」
 美奈子は、白い頬を夜目にも、分るほど真赤にしながら、恥かしげにさう云つた。
「いゝえ! 何でもないことはありません。処女の初恋は、もう二度とは得がたい宝玉です。初恋を破られた処女は、人生の半《なかば》を蹂み潰されたのです。美奈さん、妾《わたし》にはその覚えがあります。その覚えがあります。」
 さう云つたかと思ふと、あれほど気丈な凜々しい瑠璃子も、顔に袖を掩うたまゝ、しばらく咽《むせ》び入つてしまつた。
「妾《わたし》には、その覚えがありますから、貴女のお心が分るのです。身に比べてしみ[#「しみ」に傍点]/″\と分るのです。」
 母にさう云はれると、今まで抑へてゐた美奈子の悲しみは、堤を切られた水のやうに、彼女の身体を浸した。彼女の烈しいすゝり泣きが、瑠璃子の低いそれ[#「それ」に傍点]を圧してしまつた。
 瑠璃子までが、昔の彼女に
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