わざと箱根へ連れて来たのです。あの人に何の興味があつたと云ふ訳でもないのです、おせつかいなことを言つた人に対する意地で、ついそんなことをしてしまつたのです。それから、恐ろしい罰を受けようとは夢にも知らなかつたのです。」
 母の言葉は、沈み切つてゐた。強い悔《くい》が、彼女の心を苛んでゐることを示してゐた。
「妾《わたし》の想像が違つたら、御免下さい。貴女の清浄《しやうじやう》な純な心に映つた男性を妾《わたし》が奪ふと云ふ恐ろしいことをしてゐたのです。美奈さん! 許して下さい。美奈さん。」
 涙などは、今まで一度も流したことのない母の声が、湿《うる》んでゐた。
「貴女に対して、何とお詑びしていゝか分らないのです。貴女の心に萌んだ美しい想《おもひ》の芽を妾《わたし》が蹂躙してゐようとは、妾《わたし》が! 貴女を何物よりも愛してゐる妾《わたし》が。」
 瑠璃子の眼に、始めて涙が光つた。
「取り返しの付かない、恐ろしいことです。妾《わたし》が、たゞホンの悪戯《いたづら》のために、ホンの意地の為めに、宝石にも換へがたい貴女の純な感情を蹂み躙つてゐようとは、思ひ出す丈《だけ》でも、妾《わたし》の心
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